夏の句
母の日に母の秘密に気付きけり
聖五月片道切符の旅に立つ
ゆうるりと時のながるる桜桃忌
密やかな人との別れ五月尽
桜桃忌忘るることの多くなり
梅雨寒の両手に包む渋茶かな
板の間を拭きて用意の青簾
あぢさゐや少年の手のひややかに
ぼうたんのつぼみゆるりと浜離宮
音のなき音を聞きたり牡丹散る
白い雲水面にうつしめだかの子
遺言をしたためてをりつばめの子
夕立ちやふたりかけこむ寺の軒
雨音の間遠になりて江戸風鈴
ブレーキを持たぬおもひや走馬灯
みじか夜や帰るべき家のありにけり
おしろいの花のだんだんのぼりけり
少年の吐息ソーダ水の泡
緋の色のサボテンの花昼下がり
八橋を渡る日傘や城の跡
老い一日倦むこともなく蟻の列
アパートの鍵をかへして夏終はる
シャンパンの泡細やかに晩夏光
手の中のぬるき湯呑みや夜の秋
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